庭をとりまく、さまざまな場と出来事
長野県北部にある松代町は、ゆるやかな扇状地の裾野に位置し、湧水と屋敷池をむすぶ網目状の水路がつくる風景と、歴史的な街並みがところどころに残っていました。敷地は街の周縁部にあって、水路の跡と小さな庭池がつくる微地形を下敷きに、豊かな雑木林の庭がさまざまな生活の場を描き出しています。数年前に河川が埋め立てられてできた前面道路は、幹線道路として、これから車通りが多くなることが予想され、敷地の裏手が表に反転した不思議な風景が車通りを迎えています。
プロセス1
施主の家族は、空き家となった隣家とその敷地を手に入れ、隣家の建物を「離れ」として改修し、生活の場でもある豊かな庭と連関するヘアサロンをつくることを希望していました。雑木林の木陰・庭で飼われる烏骨鶏・近隣に解放された通り抜け・薪割り・ザリガニの池・農小屋と畑仕事・生活クラブ・ときおり訪ねてくる家族・ピアノの演奏・本のコレクション・山の開拓…敷地の内外に散らばり連関するさまざまな場と出来事につながり、その大きな流れの一端を結びとめるように、小さな改修を行うことができないかと考えました。
プロセス2
その後、離れでの計画から、施主の家族が住んでいる母屋の一部をヘアサロンとして改修する計画に変更となりました。庭に開いた立面をもつ母屋は、改修に対して制限の強いパネル工法で施工されていたため、ヘアサロンは建具・家具を中心とした改修計画としました。また、母屋と庭の間にある、施主の父によって仮設的につくられてきた小屋の空間性やそこでの活動を継承するように、庭やガレージなど敷地全体を少しずつ設計することにしました。
新しく計画した母屋とガレージを繋ぐ渡り廊下では、ヘアサロンへのアプローチ・看板として機能し、また庭が二つに分節され、前面道路に向けたポケット空間も生まれます。敷地全体に手を加えていくことで、ヘアサロンでの体験と庭での体験と施主家族の活動が結びつき、場と出来事の連関が一層発展させていくことを考えています。
プロセス3
ヘアサロンの開業に向け、施主家族それぞれがどこで暮らすかが決まり、その結果母屋の改修範囲が広がりました。これにより、ヘアサロンがより広く、庭の豊かさを受け入れる抽象的な空間ができました。
また、プロセス2での工事を全てやり切るのではなく、ヘアサロンの改修をしっかりと行い、庭やガレージや離れの家は少しずつ改修することで、今後施主が更新していくことを想定した「きっかけづくり」を敷地に散りばめたような全体プランとしました。
施主家族が更新し続ける庭とサロンに寄り添うように改修していくことで、場と出来事が常に変化するような環境が、この先も続いていきます。
- 設計
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調査・計画冨永美保・市川竜吾・牧迫俊希/tomito architecture
田中優衣・松野真翔/2021夏インターン
板垣諭史/2022春インターン
髙安耕太朗/2023冬インターン
竹内碧月/2023秋インターン -
建築冨永美保・市川竜吾・藤城滉俊/tomito architecture
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構造三原悠子/Graph Studio
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造園ガーデンソイル
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写真冨永美保・市川竜吾・牧迫俊希・藤城滉俊/tomito architecture
- 工事
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施工佐藤慶一/椿建築所
コモレビ大工 - 概要
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所在地長野県長野市松代町
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主な用途美容室+店舗+住宅
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構造木造2階建
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敷地面積2092㎡
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建築面積約100㎡