2年間の設計期間の間に、この丘にまつわるいろいろな話を聞きました。
例えば、丘の上にはもともと大きなプールがあって、夏が来ると子供達が家から水着で飛び出して通っていたこと。丘の中腹に小学校があり、上と麓から小学生が通っていて、通学路と敷地が重なっていること。
ひとつひとつは一度聞いたらつい忘れてしまいそうなささやかな小話たちですが、何か丘の町の生態系の一部にタッチできたような不思議なみずみずしさを感じました。そこで、見聞きした出来事をひとつずつ絵コンテのように描き、時間(X軸)と丘の標高(Y軸)の上に並べてみました。丘の上で繰り返される日常的な動き、過去に起こったこと、私たちから町や建築への提案を、丘の町の出来事の地図として並べてみました。そしてそれぞれの順番や関係性に線を引くことで、丘の町の生態系を眺めてみようという試みを行いました。
私たちの建築の提案は、この時間に大きく由来します。出来事同士にランダムに線を引いてみたり、出来事を足してみることで、町や建築、それぞれの暮らしにどんな変化が生まれるかを、ひたすら考えていきました。
「出来事の地図」から生まれた提案は、地域新聞を発行して町の情報を発信すること・外壁を解体して町角に軒先をつくること・道から引き剥がされた石畳を譲り受け敷き詰めること・100段階段でキャンドルナイトを行うなど、丘の町全体をフィールドとして実験を繰り返していくような、たくさんの動きを伴うものとなりました。