高齢者、障がいがある方の就労支援、保育園も含み、多種多様な年齢・身体の方の時間を、ぎゅっと詰め込んだ建築である。さまざまな身体と心が居合わせ生活を共にしていくこの場所では、福祉の単なるサービスの場ではなく、互いに支え合い学び合う場として捉え、集まり方、活動の重なり方などの分布や密度、関係性から建築を考えることになった。
微地形の上に集合集落を築き暮らしてきた地域のあり方に習い、生活の場として道を背骨として持ち、枝としてそれぞれの福祉プログラムを配置した。ユニット同士が道を介して向かい合い、小さな庭をいくつも共有する集合体である。さらに各ユニットを2〜3部屋単位の小さなボリュームに分解し、「耐震帯」として整理することで、簡単な内装改修によりルームのサイズや向きを変更できるよう計画した。将来的な福祉の制度変更や地域の需要の変化などにも、その都度建築が柔軟に場を整えられるように、変化できる構造システムを下地としている。要介護度4〜5の入居者は、自分自身で動けない方が多い。そこで、ケアとして起こっている日々の出来事、多様な登場人物たちが織りなす生活のサーキュレーションを「動く環境」として捉え、その動きに隣合うように日々の居場所を重ねて設計した。毎日の食事やシーツ交換などの福祉ケア、ごみ収集などのインフラ、小学生の登下校などの日々の出来事、季節の移ろいなど、いろんな出来事のサイクル動線を、道や庭、居場所に重ね合わせ、誰もがまちの日々に参加し、関係性が築くきっかけを持とうと思えば持てるような状況をつくろうと試みた。また、施設運営のプロたちにより既に蓄えられてきた大量のトライアンドエラーを、何重にもヒアリングして設計を進めた。特養の個室は死亡率が高い部屋があるという。そこで、目の届きやすさや自然が見えることを重視し、すべての居室を生活共同室から廊下を挟まず直接アクセスできるようにし、すべての窓から季節が伺える庭が眺められるように計画した。また、ユニット同士を向かい合わせに配置し、ケアの視線や動線が自然に行き交いする構成とし、日々の見守りを多重に行い夜勤者の人数編成を省力化するなど、ひと、もの、ことの流れをケアのノウハウや制度からも空間に再構成した。ほんの一瞬でもすぐに事故に発生してしまう福祉の現場の危機感と、豊かな生活の時間を築く場としてのバランス、また、ひとりで泣いたりできるような豊かな死角となる逃げ場の必要性など、この対話の場で、ふと発見される感覚的な言葉を何よりも信頼して設計を進めた。ひと、もの、出来事を空間の上に固定していくためではなく、その時おり折にそれぞれが即興的に居心地がよいと思える距離や関係性を築く事ができるような、曖昧で寛容な集合を支える環境を目指した。
- 設計
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建築冨永美保・市川竜吾・林恭正・加藤大稀・重野雄大・牧迫俊希・畠山亜美・柳沢優志/tomito architecture
川見拓也/川見拓也建築設計事務所 -
構造大野博史・藤田竜平/オーノJAPAN
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設備山下直久・上野詩織・松井知行/コモド設備計画
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家具安川流加
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ファブリック山本紀代彦・森永一有/fabricscape
- 工事
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監理冨永美保・柳沢優志/tomito architecture
川見拓也/川見拓也建築設計事務所
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建築八鍬英幸・鈴木英信・皆川昭明・鈴木祥晃/ジャパンビルド株式会社
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電気春山節郎・信太健児/有限会社協電社
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機械稲葉秀和・井上葵裕・渡辺正人・猪野和洋/株式会社内藤工業所
- 写真
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新建築社写真部
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tomito architecture
- 概要
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所在地宮城県仙台市若林区
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主な用途地域密着型ユニット型特別養護老人ホーム+看護小規模多機能型居宅介護+保育所
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構造鉄骨造2階建
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敷地面積2981.36㎡
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建築面積1281.25㎡
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延床面積1969.19㎡